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同人活動がくれた基盤
『同人活動がくれた基盤』 僕は十八から同人活動を始めた。初めて同人誌を出したのは十九になって少しあとの名古屋コミティア。初めてのことで分からないなりに本を作った。初めてだからと張り切って三種も。それも一冊は成人向け指定の過激な性の物語だった。 売れるかなんて分からなかった。けれど本にしたかった。僕の中から溢れる物を形にして残したかった。けれどやっぱり、多くの人に売れたいと心のどこかでは願っていた。...
悲劇のヒロイン症候群
「悲劇のヒロイン症候群」 「私の方がつらい」と言い放つ人を哀れんでしまう。今日はそういう話。 友人がぼやいていた。 「うつが治ったという人に、それくらいじゃぜんぜんつらくないよ、と笑われた」 友人のぼやきは続く。 「確かに私の方が飲んでいる薬は少ないし、入院も必要ない。私はしんどいって言っちゃいけないのかな」 僕は声をかけた。 「100しんどくないと『しんどい』って言っちゃいけないの?」 その人が...
ずるくてごめんね
「ずるくてごめんね」 中学生のとき、僕には身体的に同性の恋人がいた。同じ部活の後輩。髪の長い女の子。 僕は特にそのことを隠していなかった。同性愛が隠すべき物であった時代は、少なくとも僕の周囲では、とっくに終わっていたからだ。 最初は「彼女がいるの?」と珍しがられもしたが、それは「彼氏がいるの?」となんら変わらない興味と温度を含んでいると感じていたし、素直に話せば拒まれることも笑われることもなかった...
消極的自傷
「消極的自傷」 僕がひどく体調を崩していたときのこと。 薬を飲まなくなった。ご飯を食べなくなった。眠らなくなった。誰にも頼ろうとしなかった。 助けてと言うことすら許されない感覚。 「僕は苦しんで当然だからこのままでいい」という嘲笑を僕自身に浴びせ、何もしなかった。 苦しんで当然。そのままでいい。お前なんかどうなったって構わない。 ネットで「消極的自傷」という言葉を見つけたのも同時期だった。 対義語...
自殺未遂した友人に何も言わない僕
「自殺を図った友人に何も言わない僕」 僕の友人が自殺を図ったことがあった。自宅で首を吊って意識不明だと発見した別の友人が代わりにツイートしていて知った。 自殺を図った友人のアカウント、そして知らせた友人のツイート宛てにたくさんのリプライがついた。 あまりに気味が悪くて、僕は画面を睨み付けたまま電源を落とした。 送られたコメントは大きく分けて3パターンあった。 1つ目は心配する声。どうか生きていて。...
普通になりたいって、何?
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「普通になりたい、って何?」 セクシャルマイノリティや障害のある人と関わっていると、いわゆる「普通」への憧れをよく聞く。 普通の恋愛がしたい。普通に結婚したい。普通に就職したい。普通の人になりたい。 なんだか、すごいなあと思ってしまう。 そんなに明確に「普通」像を持っているのだな、と。 僕の周りにはさまざまな人がいて、どちらかというと障害のある人の方が多く友人にいるし、セクシャリティもさまざまだ。...
苦しいままでいいのに
「苦しいままでいいのに」 苦しんでいる人はたくさんいる。悲しいことに事実だ。 じゃあ僕は? きっと苦しんでいることに苦しんでいない。中途半端なところにいる。 僕はある疑問を抱いた。 「何故人は苦しみから逃れようとするのだろう」 別に苦しいままでもいいのに、と僕は思ってしまう。苦しいことは別に嫌ではないからだ。この感覚を理解されたことはない。 たとえば、原稿の締め切りに終われている苦しみは、正直違法...
破局指輪
高校生のとき、付き合っていた彼氏とペアリングを買った。ショッピングモールの中に入っているロック調のアクセサリーショップで店員さんにサイズを測って貰って選んだ。必要な肉もないほど痩せた彼の指は僕の指より細くて、店員さんは彼にレディースの商品を薦めた。彼は頑なに男性向けのデザインを選び、そして僕には同じデザインの女性向けモデルを買った。ひとつ六千円はしたと記憶している。高校生にしては大金だ。素直に嬉し...
違うと理解できない母
2019年、ワールドカップラグビーが日本で行われた。メディアも街も大騒ぎ。ラグビーを扱ったドラマが放送されたり、ラグビー選手がバラエティー番組に出演したり、と大きな盛り上がりを見せた。 そんな中、僕はラグビーが苦手だと言わせてもらえなかった。 スポーツ自体は嫌いではない。運動をすることは得意ではないけれど見る分には楽しいし、流行り物だからと特別嫌悪しているわけでもない。 でもなぜ苦手なのか。それは...
ヤンキー少女の正義
「へそピアスは開けないの?」と尋ねたら「開けないよ。殴られると痛いから」と答えた彼女のことを、僕はやっぱり好きだと思った。 彼女とは中学三年生のとき、同じクラスだった。三年生になって最初の日、自己紹介で彼女は「あたし、イジメとか大っ嫌いだから。なんかあったらあたしに言って。あたしがシメるから」ときっぱりと言った。クラスの何人かが恐ろしさに身体を震わせた。僕は憧れを抱いた。 僕の中学校は地元では有名...